人には少なからず
ルーツというものがあると思う
そこに居るのは何故なのか
その理由があるはず
俺は何故舞台に立っているのか
そのルーツみたいなものがある
4月
その日は爆弾低気圧とやらで
台風並みの風が吹いていた
出逢いと別れの4月
例に漏れず
俺にも別れがやってきた
二十歳
大人になったばかりの子供が
初めてバーで働いた
そこに彼がいた
ある日無口な彼が差し出した
一枚のチケット
ライブのチケットだった
薬院にあるビートステーション
ライブハウスの
右も左も分からない俺は
とにかく居場所が無くて
早く終わらないものかと
そわそわしていた
彼らの出番になった
最後のトリだった
少々飽きていた俺は
これが終われば早々に帰ろう
そう思った
彼らのステージが始まった
5人組のロックバンド
俺の知らない彼が居た
そのときの彼は饒舌で
茶目っ気たっぷりに冗談を言いながら
激しく燃えるように唄った
目が離せなくなった
人はこんなにも燦然と輝くのか
この一瞬に生きるのか
この日から
俺の役者としての気持ちが芽生えた
4月
あれからもう7年も経った
彼の最後のライブを見に行った
今月の12日には
タイのバンコクへ旅立つのだ
最後の曲は
こんな歌詞だった
goodfriend
mysister
また逢おうぜ
ライブが終わって抱擁と
固い握手を交わした
あまり言葉は要らない事は
お互いよく分かっている
だからこれだけ
「元気で」
それだけ交わして
家路に向かった
4月
その日は爆弾低気圧とやらで
台風並みの風が吹いていた
その風は力強く俺の背中を押した
竜一